悪質な交通事故を引き起こしてしまった場合、殺人罪が適用されることはある?

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どんなに注意深くても、車やオートバイに乗っている限り、事故を起こして相手を死に至らしめてしまう可能性はゼロではありません。時には複数の人間をはねてしまい、その全員が亡くなってしまうということもあるでしょう。

そういった場合、殺人罪が適用される可能性はあるのでしょうか。実は殺人罪の適用はかなりシビアで、交通事故で人が大勢亡くなっても加害者が殺人で逮捕されることはまずないのです。


殺人罪に問うためには殺意の立証が必要

そもそも殺人罪はどのような場合に適用されるのでしょうか。たとえば、けんかの最中にナイフを取り出した人が、そのナイフで相手を刺して死なせてしまったとします。表面的には殺人ですが、必ずしも殺人で起訴されるとは限りません。

というのは、殺人罪を適用するには基本的に「相手を殺してやろう」という意思があったかどうか、その立証が必要だからです。もし、加害者が「ナイフを取り出したのは相手をびびらせてやろうと思ったからで、もみ合っているうちに刺してしまった」という供述をした場合、相手を殺すという意思はなかったことになるので、殺人ではなく傷害致死で起訴されることが濃厚です。

これを交通事故に当てはめた場合、仮に信号無視をした結果、横断歩道にいた人をはねて死なせてしまった、という事故があったとして、確かに信号無視というのは悪質ですが、加害者に人をはね殺してやろうという意思は存在しません。

したがって、仮に事故によって大勢の人が亡くなったとしても、殺人ということにはならないのです。また、お酒を大量に飲んだ挙げ句、法定速度の倍以上のスピードを出して、信号無視をして人をはねたといった、違反をいくつも積み重ねて被害者を死に至らしめたケースであっても、同様に殺人罪が適用されることはありません。

違反の内容が悪質だから殺人ということではなく、あくまでも殺意があったかどうかで判断されるからです。ただ、上記の例のように、酩酊状態でスピード違反をしていたなど、あまりにも無謀な運転をした結果、人が亡くなった場合は危険運転致死罪が適用される可能性はあります。

従来、どのような悪質な運転で事故を起こしても、10年に満たない懲役刑が科せられるだけというケースがほとんどでした。

しかし、罪の大きさのわりに罰則が甘すぎるのではないかということで、最高で懲役20年という刑が科せられる危険運転致死罪が作られたのです。殺人罪で与えられる刑罰は5年以上の懲役、もしくは無期懲役か死刑と決まっていて、事件の内容によっては懲役10年に満たない判決が下されることも少なくありません。

したがって、危険運転致死罪は、与えられる刑罰としては殺人罪に匹敵するといえるでしょう。

事故を装って計画的に人を殺したのであれば、当然、殺人罪に問われる

交通事故を起こした結果、殺人罪が適用されることももちろんあり得ます。たとえば、ある人物に死亡保険をかけ、保険金を得ることを目的としてその人を自動車ではねて殺したといったケースです。保険金を得るためには相手を殺さないといけない、そのために車をぶつけたと見なされて殺意があったと立証されるからです。

また、一家心中を装ってわざと崖から車で転落し、自分だけ脱出してほかの家族は全員亡くなったといったケースでも殺人罪が適用される可能性は十分あります。たとえば、加害者には愛人がいて、その愛人に「家族が邪魔なので事故を装って全員殺す。

そのあと、きみと結婚する」などと事前に告げていたという場合は、殺意が認められるでしょう。つまり、特定の人物を殺すために車で事故を引き起こしたというケースだと、単なる交通事故とは判断されず、殺人ということになるのです。

交通事故で人を死なせてしまった場合はどうなる?

自動車で死亡事故を起こして裁判にかけられ、懲役刑を受けた場合、加害者はどうなるのでしょうか。まず、危険運転致死罪に問われなかった場合は交通刑務所に入れられる可能性が高いです。交通刑務所とは、自動車やオートバイによる事故を起こした人たち専門の刑務所で、一般的な刑務所と比べると、比較的、自由が与えられます。

また、交通事故の場合、懲役刑ではなく禁固刑、つまり、刑務所内で労働しなくてもいいという刑罰を与えられることも多いので、一日、テレビを見たり、本を読んだりと、穏やかに過ごしている受刑者も多いです。危険運転致死罪で起訴され、裁判所でそれが認められた場合は、交通刑務所ではなく、一般の刑務所に入れられる可能性が高いです。

交通刑務所と比べると規律は非常に厳しく、自由はあまり与えられません。当然、懲役刑なので仕事をしなければならず、そういった生活が10年、20年と続くのでかなり厳しいといえるでしょう。殺人罪で起訴され、裁判所で有罪になった場合は確実に一般の刑務所に入ります。

交通事故を偽装した殺人だから、交通刑務所に入れられるということは絶対にありません。

死亡事故を引き起こしたら必ず新聞やテレビで報道されてしまうのか

では、死亡事故を引き起こした場合、マスコミにはどのように報道されるのでしょうか。まず、危険運転致死罪に値するような事故でなくても、死亡事故の場合は新聞などで加害者の名前が実名で公表される可能性が高いでしょう。

ただ、未成年者が加害者となった場合は、危険運転致死罪で起訴されても実名が報道されることはありません。とはいうものの、一般人の多くがSNSなどで情報を発信している昨今、知っている人間が悪質な運転で死亡事故を起こしたということになれば、正義感でその人間の本名を公表する人がいてもまったく不思議ではありませんし、実際にそういったケースがあります。

そして、加害者の名前が公表された場合は、加害者本人はもちろんのこと、その家族が社会的にバッシングを受ける可能性が高いです。加害者本人は交通刑務所などに入り、ある意味、現実から逃れることができますが、加害者家族はこれまでと同じ生活はできなくなり、転居を余儀なくされることもあるでしょう。

交通事故で殺人罪に問われることはないから無謀な運転をしても平気というのは誤った考え方

交通事故なら殺人罪を適用されることはないから、無謀な運転をしても大丈夫だし、自分はそういったスリルのある運転を楽しみたいといった考え方は相当甘いといわざるを得ません。法的には殺人罪が適用されなくても、飲酒運転やスピード違反の末、なんの落ち度もない人をはねて死なせてしまったということなら、社会は加害者を「人殺し」と見なす可能性が高いからです。

死亡事故を引き起こしたら、自分だけではなく、家族も非難を浴びることになります。くれぐれも安全運転を心がけるようにしましょう。

(交通事故で殺人罪が問われることはある?)